恋風 〜二次創作執筆処〜

* ヒロイン、リオデラ=イズール(名前変換不可)

月下美人(アラビアンズ・ロスト)

恒久の愛をあなたに..(遥か3)

忘れられないヒト(テニス/幸村)

その他


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6 :: 月下美人 6

 シャーク=ブランドン。
 ギルカタール内でも有数の大商人であり、国内随一の腕を持つ外科医でもある男。
 そんな男がどうして朝も早くからリオデラの私室に訪れたのか。
 ロベルトは訝しげにシャークを見つめた。
 しかし、シャークの方はロベルトの視線など全く気にしない。つかつかとベットまで歩み寄り、ロベルトの隣にもぐりこもうとした姿勢のまま固まっているリオデラの腰にその逞しい腕を廻すと、強引にベットの上から抱き下ろした。
「残念だったな、ロベルト。わりぃがお姫さんは、これからここで点滴だ」
「・・は? 点滴ぃ?!」
 よほど意外だったのか、ロベルトが素っ頓狂な声を上げた。
 すると、シャークはうるせぇな・・、と呟きながらかったるそうに髪を掻き揚げてロベルトを睨む。
「あのなぁ、お姫さんは生まれつき身体が弱いんだよ」
「いや、それは俺も知ってるし!」
 間髪いれず突っ込むと、シャークがロベルトの知らなかった話を口にした。
「お姫さんはな、五年前に腎臓の手術をしてんだ」
「手術・・・って・・・、ええっ? 姫の病気ってそんなに悪かったのかよ?!」
 知らなかったリオデラの過去を聞かされ、ロベルトの表情が衝撃で強張った。
 それを見て、慌ててリオデラが話を付け足す。
「あ、でもね、ロベルト。もう治ったも同然なのよ、シャークのお陰で」
 焦るロベルトを安心させるようにリオデラが微笑む。
 しかし、その背後でシャークが顔をしかめた。
「確かに腎臓の機能は回復した。だが、完全に治す事はできないって言っただろ」
 シャークの言葉は外科医としての自分を責めていた。
 それがわかっているリオデラは、瞳を伏せて口を噤む。
「何度も言ってるが、お姫さんの身体に無理は禁物なんだぜ。そりゃ手術前に比べたら今はすこぶる健康体に近い。けど、完全な健康体じゃあない。俺との約束を破って昨夜みたいな無理をすれば、体力を回復するのにこうして点滴が必要になる」
 そこでロベルトが口を挟んだ。
「約束? なんだよそれ」
 話の途中に口を挟まれたシャークは忌々しそうに舌打ちした。
 だが、医者としての職業柄かそれとも性格なのか、とりあえず無視はしない。
「ああ? 別に俺個人との約束じゃねぇよ。単なる主治医と患者との約束だ」
 返事はした。だが、質問の答えを返したわけではないシャークの言葉を補うようにそのあとをリオデラが続ける。
「あのね、シャークが言ったとおり、わたくしの身体は完全な健康体ではないの。ロベルトも知っているけれど、わたくしは産まれ付き身体が弱くて・・・それは腎臓の機能が正常じゃなかったせいなのだけど、とにかく身体に負担がかかるような無理は禁物なの」
 そこで一旦息を吐いたリオデラの隙を縫うように、シャークがボソリと呟いた。
「あと、精神的な負担もだろ」
 シャークの言葉に、リオデラを見ていたロベルトの視線がシャークへと動いた。
 口惜しいが、ロベルトはリオデラと知り合ってからまだ短く親交もそんなに深くはない。だからこそ形振りもかまってられないのだが、こうして自分の知らない事をチラリチラリと垣間見せられると正直なところ内心穏やかではいられない。
 ましてや、ロベルトはリオデラが手術をしていたことも知らなかったし、あろうことがその手術をしたのがシャーク=ブランドンで、更にはリオデラの主治医を務めているなど夢にも思っていなかったのだ。
 自分が知らないリオデラを知っているシャークに対し、激しい嫉妬心が生まれて行くのをロベルトは感じていた。
 ロベルトとシャークの間に見えない火花が散る。
 それを肌で感じ取ったリオデラは、慌てて話を続けた。
「そ・・、それでねロベルト、子供の頃はただ大人しく寝ていればよかったのだけど、大人になったらそうもゆかないでしょう? わたくしには仕事だってあるし。だから、この花街ギルドの元締めを継ぐと決めた時、シャークにお願いして手術をしてもらったの。成功率はとても低かったのだけど、シャークは見事成功させてくれたわ」
 感謝の意を込めてリオデラがシャークを見る。
 しかし、シャークはその感謝を受け取る事はできないとばかりに、僅かに視線を逸らした。
「お姫さん、何度も言っているがあの手術は成功じゃねぇ。今の医術では完治させることは無理だった。俺に出来たのは半分以下だった腎臓の機能を70%まで回復させるところまでだ」
 医者としてのプライドがシャークの態度を頑なにさせる。
 わかってはいても、リオデラはそれが悲しかった。
 シャークには心の底から感謝をしている。シャークの言うことならば、どんなことでも叶えてあげたいと思うほどに。
「それでも、色々我慢を強いられてきた生活から抜け出すことができたのはシャークのお陰なの。こうして牢獄も同然だった王宮から出られたのも、母様の残した仕事を継ぐことができたのも」
 ロベルトの存在を忘れ、シャークに熱い視線を送る。
 しかし、そこに篭っているのはどんなに熱くて深くとも愛情ではない。医者に対する感謝の心だけだ。
 そしてそれは・・・・・・、シャークが欲しいものではない。
 シャークはリオデラの視線を振り切るようにワザとらしく声を上げた。
「けどなぁ、それでこうちょくちょく約束を破られちゃあ、俺としては困るんだぜ?」
 二人の間に流れていた微妙な空気。それをシャーク自身が取り払ったことで、ようやくロベルトに口を挟む隙が生まれた。もちろんロベルトはその隙を見逃さない。
「だーかーらー! 姫とシャークの約束って一体なんなんだよ!」
 駄々っ子のようなロベルトにシャークは額を押えて溜息を吐く。しかしそれはポーズだった。内心では、ロベルトの存在に感謝していたのだ。
 この状況下で二人きりだったならば、もしかしたら自分はリオデラを傷つけていたかもしれない。
 リオデラへの想いをひた隠しにしている自分を棚に挙げ、患者としての感謝ならいらないと八つ当たりをしていたかもしれない-----と。
 だかこそ、シャークの声音も必然的に柔らかいものになった。
「おめぇもしつこいな・・」
 同じ女を想う男同士にしかわからない空気というものがある。
 ロベルトはそれを敏感に感じ取り、ニヤリと口元を歪ませた。
「うっせーよ! いいから教えろ!」
 大げさに急かすロベルト。その真意を感じ取ったシャークもワザとらしく腕を組むと、吐かなくてもいい溜息を盛大に吐いた。
「お姫さんにはな、徹夜は一ヶ月のうち五日間までって約束をさせてるんだよ」
「・・・・は?」
 リオデラを他所に演技することを楽しんでいたロベルトは、一瞬目を点にした。ロベルトが素で呆けたような顔をすると、シャークの顔にも堪えきれない笑みが浮かぶ。
「お姫さんの仕事は夜が中心だ。アンタも知っているだろうが、花街の事だけじゃなくアッチの仕事も夜がメインだろ?」
 シャークが言わんとしている事はリオデラと付き合いの短いロベルトでも知っている。と言っても、偶然ある男繋がりで知ったのだが。
「ああ、アッチ・・ね」
 ロベルトは自分に嫌味を言うのが日課と化しているような憎たらしいあの男の顔を思い出し、思わずその顔を顰めた。そんなロベルトを他所に、シャークの話は続く。
「だが、徹夜は身体に響く。お姫さんには夜の二時をタイムリミットにして、どうしても抜けられない仕事の場合だけ徹夜することを許してあるんだ」
 ここでようやくリオデラとシャークが主治医とその患者として交わした約束というのが何か判明した。
「なるほどねぇ・・、それでその期間が五日間・・・と」
 呟くロベルトにシャークが相槌を打つ。
「ああ」
 そして、ここまですっかり蚊帳の外状態だったリオデラにロベルトの視線が向く。
「で? 姫がその約束を破ったっていうのは、もしかして昨夜が・・・・・・」
 ロベルトの言おうとしたこと。
 それは、昨夜が約束の期限を越した徹夜だったのではないか・・・、という事なのだが、もしかしなくともそれは推測ではなく、事実だということはリオデラに確認を取るまでもなくシャークの態度からありありと感じ取れた。
「お姫さん、俺に気付かれないと思ってたのなら大間違いだぜ」
 とても医者とは思えない声で凄むシャークに、リオデラは緊張でゴクリと喉を鳴らした。
「ご丁寧に、アンタの弟君ってのを名乗る男が朝も早くから俺のところに乗り込んできやがったんだよ。五日間の約束を破らせてお姫さんに徹夜をさせてしまった。だから今すぐにお姫さんのところに行って点滴をしてやってくれってな」
 思いもしなかった事実を告げられ、リオデラが叫ぶ。
「スチュアートが?!」


 結局、元を正してみれば昨夜から今朝にかけて起った出来事を引き起こしたのは自分だった。
 リオデラがアイリーンの婚約者候補にスチュアートを推薦したことでスチュアートが相談に訪れ、そのせいで身も知らぬ男が死ぬことになり、その男のせいでロベルトのスーツが汚れリオデラの寝室に堂々と進入。そして偶然乱入してきたタイロンを交えたせいで、単なる相談だったはずが久々に勃発したライバル同士の罵りあいに変わり、結局それに一晩中付き合わされた。
 その結果、極めつけがコレ・・・・だ。
 ベッドに横たわったリオデラがその視点ををシャークへと向ける。
「ねえ、シャーク。今日の点滴の量がいつもより多い気がするのはわたくしの気のせ・・」
「処置を施している時は 『先生』 だ」
 白衣を羽織ったシャークが上から睨みながらリオデラの問いかけを遮った。
 身分的には比べるまでもなくリオデラが上なのだが、患者という立場にあっては身分の差など関係なくなる。リオデラは身を竦めて 「ごめんなさい、先生」 と呟いた。
 全てを遡ってみれば、確かにシャークとの約束を破ることになった大元は自分の行動のせいなのだが、何か納得いかない気がしてリオデラは深い深い溜息を吐いた。
 どう考えても、こうなった全ての元凶はスチュアートのような気がして・・・・・・。
 そして、居座る場所をベッドの上からソファへと移し、リオデラとシャークのやりとりを眺めては、
「うーん、医者と患者。いいねぇ・・。いやいや、待てよ? 医者と看護婦って設定もオイシイかも・・・」
 なとどニヤニヤしながらよからぬ妄想をしているらしいロベルトの姿もリオデラの溜息を深く重いものにしているのだった。

>続く

月下美人(アラビアンズ・ロスト) | 2008.05.17(Sat) | com(0)



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